読み屋さん

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#1 ビリジアン/柴崎友香(河出文庫)

 こんにちは、今日は記念すべき一冊目の感想を書こうと思います。

 

 「ビリジアン」柴崎友香河出文庫

ビリジアン | 小説家:柴崎友香オフィシャルサイト

 

 柴崎さんのこの本です。ごく最近文庫本化されたみたいですね。大学生協でふと手に取って、気が付けばレジに持って行ってました。

 「その街の今は」という作品をご存じでしょうか。僕は柴崎さんを意識するずっと前に、映画化された同作をテレビの深夜枠で偶然見ました。確か中学生の時で、夜更かしをしていたんだと思う。その時も彼女の描く街の風景描写に魅了されていた。

 

 この作品も街の描写が細かい。大阪の街が主な舞台になっているが、あの都会的な、工場の騒音とか漏れたオイルの艶めかしい虹色とかドラム缶の鉄臭さ、それに加え、放課後に見た夕焼けの色とか授業中に眺めてた外の風景とかが詳細に書かれてある。

 主人公が十代の記憶をランダムに遡っていく、短篇連作というのだろうか。十代のそれぞれの時代を事細かに描写する様はノスタルジーを感じずにはいられない。風景描写も見事だが、その時にしていた会話・感情・空想などの心理描写も写実的で、十代を過ごした舞台は違えど読者のこちらもどんどんその世界に入っていった。

 

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 思春期というのは自分がなりたい自分になるため、日々焦燥に駆られながら生きる時間だと思う。かっこよくなりたい、強くなりたい、自由に生きたい。そんな思いを心のどこかに皆抱えている。

 その思いは社会に出て働いていくうちに、日常のせわしなさでいつしか希薄されるの だろう。十代に体験した記憶を大人になってしまった自分が振り返るとき、十代のあの頃は「青春」へと姿を変える。

 

 子供の頃の記憶というのはなんだか妙に詳細で、今思っても本当にその記憶の通りなのか不安になってくるほどだ。それでもとにかく、昔の記憶は実は意外と正確であったりする。その記憶を辿ると、自分のルーツがどこにあるのか少しわかるのだ。深緑色の過去の深淵を覗くことで今自分がどこにあり、どうなろうとしていたのかを思い出せるのではないだろうか。